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フォルクローレとバロック音楽の融合。この発想そのものはヨーロッパ人にとっては極めてナチュラルなものでアンデス楽器を使ったバロック音楽の演奏は古くはロス・チャコスのアルバムに見られる様、これまでも幾度となく試みられきました。このアルバムでアカ・パチャが演奏している音楽は、そういったバロック音楽をなぞらえたものではなく、アンデス音楽と西洋音楽の双方から深く影響を受けた音楽家たちによる、そのどちらでもあり、そして、そのどちらでもない音楽です。 彼らの音楽を語るにあたってこのグループ誕生の経緯についてお伝えしておかねばなりません。アカ・パチャはボリビア出身のフォルクローレ演奏家、マリオ・グティエレスによって、1989年に結成されました。彼はかつてボリビアの伝統音楽に根ざした音楽を得意としボリビア本国をはじめヨーロッパで高く評価を受けてきたロス・ルパイのリーダーでありました。1985年、彼は突如、公の舞台から姿を消し、その後彼が再び音楽への創作意欲に沸き誕生したのがこのアカ・パチャです。 このアルバムには残念ながら、主役であるはずのマリオは参加していません。なぜならば、彼は1994年に9月に生涯たった一度だけこのグループのメンバーとして舞台に登り、その年の10月にベルギーのアントワープで亡くなっているからです。残されたメンバーは以来、深い悲しみを乗り越え5年以上の歳月を経た2001年ついに彼の意思を世に出すに至ったのです。 さて、肝心のこのアルバムのサウンドですが、水源の湧き水のように清らかで、それでいて揺り篭のような優しい音楽、とでも表現すれば良いのでしょうか?登場する楽器はケーナ、サンポーニャ、チャランゴ、ギターなど馴染みのアンデス楽器に加え、パラクアイ・ハープ、チェロが加えられることでサウンドに透明感を与えています。こう書いてしまうと、「何だ、今流行の癒し系サウンドか」ということになるのですが(確かにそういう接し方でも楽しめます)、そこには苦悩の末に作り上げられた高度な精神性が存在します。圧巻は何といっても30分以上にも及ぶ組曲“QUIMSA PACHANACA”。一年を通してのアンデス自然の移り変わりを表現したマリオの手によるこの作品は、まさに二つの音楽の融合を違和感無く実現しています。三人のドイツ人にこのアルバムを作らせたのは、この素晴らしい音楽を世に残さねばといった使命感にも似た思いであったのかもしれません。
RUPPRECHT WEERTH: KENA, SIKU, SIKURA AND WANKARA HANNES TRITTLER: CELLO, CHAJCHAS FRIEDRICH HACHENEY: HARP, GUITAR, CHARANGO その他参加ミュージシャン ECKART HOLZER: SIKURA, SIKU